大手企業の実験台

著者:-

 ある日出社すると突然リストラを言い渡された。慶應卒、総合商社に入社し6年目。先日初めてのプロジェクトを成功させ同期からも一目置かれる存在だと自負していた矢先、まさに青天の霹靂だった。  「一体なぜ・・・?」  自分に問うても答えなんか出てこない。デスクには何もなく、一度も話したことのない人事部長から「今すぐ帰ってください」と連呼されるだけだった。今日以降の出社は必要ないという事実だけが、冷たい現実として胸に刺ささる。  それから数ヶ月たった。なぜか毎月、前の会社から働いていた時と同じ額が振り込まれてくる。しかも律儀に給料日さえ変わりなく。本当に退職なのか?と疑ったが、まぎれもなく無職だ。一応個人事業主には切り替えたが。  更に数年経っても毎月振り込みがある。貯金はたまる一方で、転職活動する気力はすっかりなくなった。近々タワーマンションへの引っ越しさえ考えている。働かない日々も悪くない。  ただ一切のやる気が起きない。毎日一人で夜の街へ繰り出すのも飽きたし、その辺の女にマウントを取るのにも疲れた。色々な勉強を開始したものの、目標がない分何をしていいのかわからなくなる。  前の会社になぜ給料を振り込むのか問い合わせたこともあったが、なにも答えられないらしい。  「今35歳かあ、人生ってむずかしいな・・・」  狭いマンションの一室で呟き、今日も酒を飲む。ただただ、心ゆくまで酒に浸る。こんな人生も悪くはないが、常に満たされないしこりを胸に、夜のしじまに呑まれるよう横になる。  この生活は、一体いつまで続くのだろうか。充実とは、何なのだろう。何年もこの答えが出ずに、また次の1日を迎える。俺は、幸せなのだろうか。 ある日、知らない番号から電話がかかってきた。  「はい、もしもし・・・。」  「今の人生に点数をつけるとしたら何点ですか?」  「・・・0です。」  「・・・・・。」  「誰?切りますよ?」  少し怖かった。友達もいない今、携帯なんて持つ意味がない。だからその電話があった日に解約をした。幾分、お金の節約につながるだろう。  不思議なことに、その月から支給額が倍になり、毎月120万円が手元にくるようになった。こういうと人は俺を恨むだろうが、正直嬉しさは微塵も感じられなかった。  40を超えた今、貯金は4000万円を超えた。今あるのは、果たしてこの支給はいつまで続くのか、嫁もいない俺はいつ幸せになれるのだろうか、という不安だけである。  今日も13年過ごしている部屋で横になり、夜まで過ごす。何気なく見つめた火災報知器から一瞬緑色に光る何かを見てとれたが、たかが虫が沸いたところで気にする俺ではなくなった。