『短編』かき氷と秋の始まり。

著者:-

僕はいつも誰かと話していても、視覚と聴覚はその花の方に半分は持っていかれていて、枯れそうにないその花を自分の気持ちに植え替えて育てていた。 ある日、いつもの様に僕は友達と話していると、僕の好きなその子が幼馴染と思われる男の子と話していた。 その男の子は隣のクラスなのだが、時々やって来て、僕の好きな子の隣に座っては話し込んでいる。 読みかけの小説を閉じ、2人は2人だけの世界に入り込む。僕はそんな風に見えてしまう。 その時の心は内心穏やかではなく、モヤモヤと変な嫉妬心と何故かいじけてしまう。 「恭子。今日確かおれん家でみんなでご飯食べる日だったよな。」 「そうそう。だから後でお母さんと正也の家のお手伝いに行こって今朝話していたんだ。」 「おばさんと恭子が作るアヒージョ美味しいもんな。」 「なら、今日アヒージョ作って持っていくよ。」 僕はクラスの雑音を掻い潜って聞こえてきた会話に耳を澄ませて心を乱した。 どうせなら、ここではなくて他のところで話して欲しい。聞こえなければ知らなくて済むし、知らなければ僕の気持ちはこうも乱れない。 自分勝手な思考を張り巡らせて僕は勝手に落ち込んだ。 その夜、夕食が終わり自分の部屋で恭子が読んでいた小説を開き読み始めた。 今頃、恭子と正也は一緒にご飯をたべているんだな。 そんな妄想を膨らませていた。もちろん、小説は開いているだけで、活字だけを追い、内容は頭に一切入ってこない。 僕の入る余地はない。 僕はその答えに辿り着いていた。 "若さとは時に残酷である" ふと小説の一文が僕の目に飛び込んで脳まで一直線に伝わった。 この心のモヤモヤにいじけ具合。なぜ恭子を好きになってその恭子には正也がいるのだろう。 この気持ちも全部若さからくる心の葛藤なんだと、僕の気持ちもだんだん憎らしくなっていった。 "若さとは時に残酷である" この言葉に僕はだんだん吸い込まれていった。負の連鎖である。 僕は小説をドサっと閉じると、ベッドに横たわりそして眠くないのに目を閉じてただ時間が経過するのを待った。 外ではじめじめした梅雨が終わり、そして夏がやってきた。 セミは忙しなく鳴き、アスファルトからは乾燥した匂いがする。僕は汗で肌にくっついたシャツの胸元をパタパタさせながら、窓際の自分の席で時々入ってくる風を感じていた。 僕の2つ前の席にいる恭子は小説を読みながら時々話しかけてくる他のクラスの子達と夏休みの経過を話していた。 「ねー。8月にある花火大会は正也と行くの?」 「行かないよ。そもそも正也とはそんな関係じゃないし。たまたま幼稚園が一緒でお隣さんだからってだけでそんな関係じゃないよ。ただの幼馴染で親同士が仲いいだけよ。」 「そうなんだ。いつも恭子と正也仲良さげだから実はできてるのかな。って思っただけ。」 「私は今年の花火大会は行かないかな。人混みが苦手なの。」 僕はその会話を聞きながら、まー。正也と一緒に行くってなっていても、誰にも言わないよな。 去年同様に弟誘って行くか。 僕はその頃には少し恭子に対しての気持ちに盛り上がりはなく、でも、夏休みに入れば一ヶ月と半分恭子に会うこともないな。っとほんの少し寂しさがあった。 僕と恭子は同じクラスになってもあまり会話をする事はなかった。恭子に自分の気持ちを悟られまいと僕の中の何かが抵抗していたのだ。 そのまま夏休みに入る前に僕と恭子が話したのは、「数学のノート集めないとだから出して」っとたった一回僕が勇気出して行った「おはよう」の2回だけだった。 そのまま夏休みに入り、僕は親に勧められた夏期講習と宿題と趣味に没頭していた。 花火大会の1週間前に弟に花火大会の提案をし、弟は楽しだと嬉しい反応をしてくれた。 しかし、花火大会当日。弟は季節外れの夏風邪を拗らせてしまった。 市民プールに友達と行き、帰ってきてそのままクーラーの効いた部屋で寝てしまったのが原因らしい。 僕は少し残念になり、今年は諦めるかっと勉強を始めた。 没頭したまま気づいた時には外は暗くなっており、夕飯の支度ができていた。 僕は夕飯を食べ終え、時計を見ると19時半。 後1時間くらいで始まるな。 勉強をするにはもう電池が切れていたし、気分転換に散歩をするついでに花火大会を見に行こうと腰を上げた。 サンダルを吐き、外に出ると少し蒸し暑い空気がクーラーで冷えた体には心地よい。 僕は花火大会の会場にあたる河川敷に歩いて向かった。 行き交う人たちは家族。カップル。 一直線に同じ目的場所に向かっていた。 僕は人の向かう方向に向かって歩き、出店がちらほら現れた所で弟にリンゴ飴と両親にたこ焼きを買って、僕はかき氷を買い、花火の見えるメイン会場を避けて人気のない場所を探した。 メイン会場から少し離れた場所の階段に腰を掛け、僕は2つ刺さったかき氷のストローを1つ取り、苺味のかき氷を一口食べた。 ひんやりとしたかき氷は歩いてきた僕の体を内側から冷やしてくれた。 「あっ。」 僕の後ろから聞いたことのある声が聞こえた。 「やっぱり。こんな所で何してるの?」 それは恭子だった。 「花火大会を弟と来るつもりだったんだけど、弟が風邪ひいちゃって、暇だから来たんだ。」 「弟君大丈夫?あっ。私は家が近くで毎年1人ここで花火見てるんだ。」 「大丈夫だよ。熱は下がったってさっき連絡あったし。この辺なんだね。知らなかったよ」 僕はまさかの出来事に緊張して溶けるかき氷を見つめながら答えた。 「私たちってクラスでもあまり会話しない2人だよね。席は近いのに。」 「僕あまり女子とは話さないからね」 「そうなんだ。」 僕たちの間に少しだけ間が空いた。 何か話さなきゃと僕は咄嗟に口が動いた。 「隣のクラスの正也君だっけ。彼と仲良いから恭子さんは彼と花火大会行くものだと思ってたよ。」 「ん。それはないよ。私と正也は幼馴染。それ以上でもそれ以外でもないし。それに私好きな人いるし。正也はそれ知ってるし、相談聞いてくれるんだよ。」 「そうなんだ。」 「話に行け。とか。花火大会誘え。とかわざわざ隣のクラスから来てまで相談乗ってくれるんだ。結局、その人とは夏休みに入るまでに話したのは二言だけだったけど。」 そう言って恭子は僕の隣に座り、小さく丸まった。 「隣いい。一緒に花火見ようよ。」 僕はうなづきいつも学校では背中しか見ない恭子が隣にいる為か全身の体温が一気に上がり冷やす為にかき氷を歯奪った。 「かき氷いいな。私も買って来ようかな。」 恭子がそう言うと僕の口は勝手に動き出した。 「いろいろ聞かせてくれたし、一緒に買いに行くよ。女の子1人じゃ危ないし。」 そう言うと恭子は少し考え、小さい体を更に小さくして秋の始まりを告げる虫の声より小さい声で言った。 「なら、かき氷一口頂戴。」 僕は一瞬聞き間違いかと思ったけれど、震えた手で恭子にかき氷を渡して 「どうぞ」 っと言った。 二つあるスプーンの1つを恭子に渡し、ありがとうと恭子が言うと、僕たちは1つのかき氷を2人で食べた。 そして、一発目の花火がなると、その光で見えなかった恭子の顔が見えた。 少し赤くなっているような。 僕はその顔を忘れない様心の鉢に植えクラスの僕の花を大事にしまった。 秋に差し掛かるこの日、僕たちは少しだけ近づけた様なそんな気がした。 おしまい -tano-